不動産の売却時に、意外と大きな出費になるのが「税金」です。
かなり高額になることも多いので事前に把握できたらいいのですが、税金の話は専門用語が多く、理解しづらくて困ってしまいますよね。
厳密な額が知りたければ税理士に相談するのが一番ですが、専門家への相談は少し敷居が高くもあります。
そこで今回は、まったくの税金初心者でも大まかな税額を把握できるように、基礎知識だけをわかりやすく解説していきます。
用語の説明や計算方法の説明はもちろん、税金対策のために知っておくべき特例や金額シミュレーションも併せて紹介しますので、ご自身の状況と照らし合わせて読み進めてくださいね。
不動産売却には3種類の税金がかかる!
土地や建物を売るときには、下記3種類の税金がかかります。
1.
印紙税
2.
譲渡所得税
3.
住民税
売買契約時には「印紙税」を、売却後に確定申告すると同時に「譲渡所得税」を支払うことになります。また確定申告することにより、「住民税」が市区町村により自動的に計算され、6月以降に課税されます。
*所得税は国税に、住民税は地方税に分類されます。
これらの税金を考えずに売却計画を立ててしまうと、「想定していたより手元に残るお金が少なかった」という結果になりかねません。とくに、売却資金を新居購入などの費用に充てようとしていた場合は致命的です。
後で困らないように、それぞれの税金がどんなものでいくら必要なのか、ひとつずつ見てみましょう。
不動産売却にかかる税金の1つ目は【印紙税】です。
不動産売買契約書には、契約金額に応じた収入印紙を貼付します。
売主と買主が1通ずつ売買契約書を所有するためには、それぞれが印紙代を負担することが一般的です。
平成26年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成される不動産の譲渡に関する契約書については、下表のとおり軽減措置が適用されます。
売却価格が500万円~1億円程度の一般的な土地やマンションなどであれば、5千円~3万円の印紙税がかかると考えておけばいいでしょう。
※税率は変動する可能性があるので、最新の情報は国税庁webサイトでご確認ください。
(参考: 不動産売買契約書の印紙税の軽減措置|国税庁 タックスアンサー)
ポイント:一般的な住宅売却なら、印紙税は5千円~3万円程度!
不動産売却の税金②:譲渡に係る所得税&住民税
不動産売却時にかかる税金2つ目と3つ目は、【譲渡所得税】と【住民税】です。
この2つは、売却によって利益が出た場合にのみ支払う税金です。
売却価格が購入価格より安い等、売却して損をしてしまった場合は払う必要がありません。
ポイント:譲渡所得税と住民税は、利益が出なければ払う必要がない!
譲渡所得税と住民税は、さまざまな条件によって税額が大きく変動します。
不動産売却の税金の中でも高額かつ難しいものなので、以降はこの2つの税金を掘り下げて説明していきます。
譲渡所得税と住民税を理解しよう!
譲渡所得税と住民税は、不動産の売却金額による利益である「譲渡所得」に課される税金です。
そのため、算出には「譲渡所得」がいくらになるのかが大きなポイントとなります。さらに、不動産の所有期間によって所得が区分され、税率が変わるため注意が必要です。
まずは用語の説明を行い、そこから実際の税率や特例、確定申告の要不要を説明していきます。
譲渡所得とは、不動産の売却金額(譲渡価額)から、不動産の購入金額(取得費)と売却時にかかった諸費用(譲渡費用)を差し引いたものを指します。
それぞれの用語を簡単に説明しましょう。
■譲渡価額 不動産の売却価額に、固定資産税と都市計画税の精算金(※)を足したもの
■取得費 不動産の購入価格および購入にかかった費用(仲介手数料など)。不明な場合は譲渡価額の5%とする。なお、建物は所有年数に応じて減価償却する
■譲渡費用 仲介手数料や印紙代など、不動産売却にかかった費用
※固定資産税と都市計画税の精算金
固定資産税と都市計画税は毎年1月1日時点の所有者に対してその年分の税金が課せられるため、年の途中で不動産を売却した場合、売却後の期間に相当する分を買い主から売り主に支払うことが一般的です。
これを踏まえると、譲渡所得の計算式は下図のようになります。
つまり、「譲渡所得とは、不動産の譲渡価額から不動産の購入~売却までにかかった費用を差し引いた、最終的な利益もしくは損失のこと」と理解しておくといいでしょう。
ここから更に、状況に応じた特別控除を差し引くと、実際に課税される金額が算出されます。
代表的な特別控除である「居住用財産の3,000万円特別控除」の条件に当てはまる場合、先ほど算出した譲渡所得から、さらに控除額を差し引くことができます。
この差し引き後の所得が「課税譲渡所得」であり、これに税率を掛けることで実際の税額が得られます。
譲渡所得税と住民税は課税譲渡所得がプラスであるときのみ発生し、マイナスである場合は払う必要がありません。
※2020年3月時点の情報です。
・減価償却費の求め方
譲渡所得を算出するときに使う建物の「取得費」は、建物を購入した価格から「減価償却費」を差し引くことで求められます。
減価償却とは、簡単にいうと「経年によって目減りした価値を差し引くこと」です。
土地は経年により価値が変化することがないため、減価償却は建物にのみ適用されます。
10年間住んだ家は、経年劣化などによって、新築の家よりも価値が低くなりますよね。その「目減りした価値」を購入費から差し引いたものが取得費となります。
目減りした価値、つまり減価償却費は、定められた償却率と計算式によって計算します。
所有期間が長ければ長いほど減価償却費は大きくなり、無視したまま課税譲渡価額を計算すると譲渡所得に大幅なずれが生じます。必ず加味しましょう。
居住用の建物の減価償却費の計算式は、下記の通りです。
居住用(非業務用)の建物の法定耐用年数と法定耐用年数1.5倍の償却率は、下表を参照してください。
たとえば、新築で購入した5,000万円の木造建築が築10年になった場合、下計算式で減価償却費を算出します。
減価償却費=5,000万円×0.9×0.031×10年=1,395万円
つまり、取得費は購入価格5,000万円-1,395万円=3,605万円となります。
ポイント:建物の購入価格からは減価償却費を差し引く!
※2020年3月時点の情報です。
・所有期間が「5年超え」であれば「5年以下」よりも税率が低くなる
先ほど算出した課税譲渡所得に対して税率を乗算すると、税額が得られます。
ただし、この税率は一定ではなく、不動産の所有期間によって異なります。
不動産を売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えている場合は「長期譲渡所得」、5年以下であれば「短期譲渡所得」となり、それぞれの税率は下記の通りです。
·
長期譲渡所得(所有期間5年超え):20%(所得税15%+住民税5%)
·
短期譲渡所得(所有期間5年以下):39%(所得税30%+住民税9%)
なお、平成25年1月1日~平成49年12月31日までは、復興特別所得税として所得税に2.1%が上乗せされて、下表の税率となります。
このように、長期譲渡所得と短期譲渡所得では、税額が2倍近く変わってきます。
購入から4年目で売却を考えている場合、あと少し待った方が税率は低くなります。
とはいえ、買い手がつくタイミングや売れる金額によっては、長期譲渡所得になるまで待つことが必ずしも得であるとはいいきれません。
価格と税額の両方を踏まえて、総合的に不利益が出にくい時期を考えるべきです。
ポイント:所有期間が5年を超える不動産は、税率が半分程度低くなる!
※2020年3月時点の情報です。
・分離課税のため、会社員でも確定申告が必要
不動産売却における譲渡所得税と住民税は、他の所得と区分して課される税金である「分離課税」です。分離課税となる不動産の譲渡による損益は、他の所得と通算(相殺)することはできません。
給与所得者の場合でも、不動産の譲渡により売却益が出て税金が発生した場合、会社の年末調整とは別に確定申告をする必要があります。
不動産を売却した翌年の3月15日までに、必ず済ませるようにしましょう。
ポイント:不動産の譲渡により利益が出たら、売却の翌年3月15日までに確定申告しよう!
・税額が軽減される代表的な特例
不動産売却の税金には様々な特例があり、適用できれば大幅に税額が軽減されます。
できるだけ税額を減らしたい、節税したい、と考えている人は確実に押さえておくべきポイントです。
今回は、よく利用されるマイホーム(居住用財産)と空き家に関する特例を4つ紹介します。
・居住用財産の3,000万円特別控除
・居住用財産売却の軽減税率の特例
・居住用財産の買い替え特例
・空き家に係る譲渡取得の特別控除
居住用財産とは、「実際に居住している物件」もしくは「実際に居住していた事実があり、住まなくなってから3年が経過する日の属する年の12月31日までの物件」のことを指します。
住んでいるマイホームの売却・買い替えを検討している人や、相続して空き家となっている住居の売却を検討している人は、大幅な減額が期待できます。
ただし、この特例はあくまで「実際に居住しているマイホームを売る」ことで受けられるものです。この特例を受けるために住民票だけ移したり、短期的に入居したりした場合は適用外となります。もちろん別荘などにも適用されません。
ひとつずつ、条件や控除額を確認していきましょう。
特例1:居住用財産の3,000万円特別控除
居住用財産、つまり実際に住んでいるマイホームを売却した場合、一定の要件を満たすことで所有期間の長短に関わらず譲渡所得から最高3,000万円までを控除できる特例です。
これは、マイホームという居住用財産を手放すことを考慮した税負担を軽くする特例なので、必ず覚えておきましょう。
ただし、住宅ローン控除と併用できないので、住み替えの方は注意してください。
特例2:居住用財産売却による軽減税率の特例
さらに、居住用財産の所有期間が譲渡した年の1月1日において10年を超えている場合、課税譲渡所得のうち6,000万円までは税率が下表の通り下がります。
なお、この規定は特例1の3000万円特別控除と併用することが出来ます。
特例3:居住用財産の買換え特例
マイホームを売却するだけでなく、買い替える場合は「居住用財産の買換え特例」が使用できる場合があります。
この特例では、売ったマイホームの譲渡価額より買い替えたマイホームの取得価額の方が高い場合、利益に対する課税が繰り延べられ(※)、税負担がなくなります。
※課税の繰り延べ:買い替えたマイホームを将来売却しした際に今回課税されずに繰延べられた所得に課税される制度
税率は一律で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。
3,000万円控除・軽減税率との併用はできませんが、こちらを選択すれば課税譲渡所得が3,000万円を超えた場合でも税負担を軽減することができます。
この特例を受けるためには、下記要件を満たす必要があります。
・譲渡したマイホームの所有期間が10年超かつ居住期間が10年以上であること
・譲渡価額が1億円以下であること
・新しく購入したマイホームの取得が、譲渡した年の前年1月1日から譲渡した年の翌年の12月31日までであること
・確定申告をすること
特例4:空き家に係る譲渡取得の特別控除
相続した空き家を、「家屋の取り壊し」もしくは「耐震リフォーム」の後に売却する場合、マイホームと同様に3,000万円の特別控除を受けられます。
これは平成28年の税制改正で制定されたもので、周囲に迷惑をかける可能性がある管理されていない空き家の有効活用を推進する目的があります。
そのため要件が細かく多岐に渡ります。(適用期限:平成28年4月1日~令和5年12月31日まで)
主な適用要件は下記5件です。
1. 旧耐震法の昭和56年(1981年)5月31日までに建築された戸建て住宅
2. 被相続人が一人暮らしをしており、相続発生後、貸付や居住などしていない空き家
3. 相続開始から3年後の12月31日までに譲渡したもの
4. 新耐震基準を満たすよう改修された家屋とその敷地、もしくは家屋を解体している更地になった土地
5. 譲渡対価が1億円以下
要件はやや厳しく時期も限定的ですが、使用できるのであれば大幅な減税が期待できます。
よくある事例とシミュレーション
最後に、よくある事例2パターンを想定して、実際に税額を計算してみます。
想定1:築12年の居住用マンションを売却する場合
都心の新築マンションを購入して居住していた場合を想定しています。
税額を計算するために、まずは「譲渡価額」「取得費」「譲渡費用」「譲渡所得」を出していきましょう。
【譲渡価額】
譲渡価額=売却想定価格4,300万円+固定資産税精算金10万円=4,310万円
【取得費】
減価償却費=建物の購入価格2,000万円×0.9×0.015×12年=324万円
取得費=土地の購入価格2,000万円+建物の購入価格2,000万円-減価償却費324万円=3,676万円
【譲渡費用】
仲介手数料=売却想定価格4,300万円×3%(※)×1.1(消費税)=141万9,000円
売却想定価格4,300万円から、印紙税=1万円
譲渡費用=仲介手数料141万9,000円+印紙税1万円=142万9,000円
※不動産売却の仲介手数料として一般的な「売却価格の3%」を想定
【譲渡所得】
譲渡所得=譲渡価額4,310万円-取得費3,676万円-譲渡費用142万9,000円=491万1,000円
次に課税譲渡所得を出します。
この場合、居住していたマイホームを売却するため、居住用財産の3,000万円特別控除が受けられます。
また、所有期間が10年を超えているため、居住用財産売却による14.21%の軽減税率が適用されます。
上記を踏まえて、課税譲渡所得を計算してみましょう。
【課税譲渡所得】
譲渡所得491万1,000円<居住用財産の特別控除3,000万円
譲渡所得が3,000万円以下なので全額控除、控除額は491万1,000円
課税譲渡所得=譲渡所得491万1,000円-特別控除491万1,000円=0円
課税譲渡所得がプラスになっていないので、この場合は14.21%の税率をかけるまでもなく、税金が発生しません。
つまり、築12年の居住用マンション売却の譲渡所得税と住民税は【0円】です。
※2020年3月時点の情報です。
想定2:住まなくなって5年経過した、築12年の居住用マンションを売却する場合
次に、先ほどのマンションが「住まなくなって5年経過していた物件だった場合」を考えてみましょう。
想定1と異なるポイントは、「住まなくなってから5年が経過している」という点だけです。しかし、想定1と条件が異なっていることがわかります。
ここで、「居住用財産」の定義を思い出してみましょう。
マイホーム関連の特別控除が適用される「居住用財産」とは、「実際に居住している物件」もしくは「実際に居住していた事実があり、住まなくなってから3年が経過した日の12月31日までの物件」でしたね。
この物件はその条件を満たしていないため「居住用財産」には該当せず、前述した4つの特例は適用されません。
これを踏まえて、特別控除の影響が出てくる「課税譲渡所得」の算出を行ってみましょう。
【課税譲渡所得】
課税譲渡所得=譲渡所得491万1,000円-特別控除0円=491万1,000円
1,000円未満切り捨てのため、491万1,000円
所有して5年を超えているため、税率は長期譲渡所得に対する税率。
【税額】
長期譲渡所得の税率=所得税15.315%・住民税5%
所得税=課税譲渡所得491万1,000円×15.315%=75万2,119.65円
100円未満切り捨てのため、75万2,100円
住民税=課税譲渡所得491万1,000円×5%=24万5,550円
100円未満切り捨てのため、24万5,500円
【譲渡所得税 75万2,100円】+【住民税 24万5,500円】=【合計税額 99万7,600円】
つまり、この場合の譲渡所得税と住民税は【99万7,600円】です。
特別控除を受けられなかっただけで、0円だった税額が100万円に近い金額になってしまいました。
※2020年3月時点の情報です。
・税額は条件によって大きく変動する
このように、条件が変わると、税額は大きく変動します。
課税譲渡所得が大きくなればなるほど税額も膨れ上がるので、不動産売却前には必ず計算しておきましょう。
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最後に|不明な点はプロに相談を
今回は、個人による不動産売却時の税金について基礎的な事項を解説しました。
不動産売却は、売却金額がそのまま手元に残るわけではありません。
売却を考えているならば、この記事を基にシミュレーションしておくことをお勧めします。
ただし税制は非常に複雑であり、かつ日々変化しています。
今回紹介した特例以外にも「居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」などがありますし、相続や法人が絡めば考えるべき条件がさらに増えたりもします。
正確な税額が知りたい場合は、査定をした不動産会社に問い合わせたり、税理士や税務署に相談したりしましょう。