2022年以降の住宅ローン金利はどうなる?低金利時代が終焉する場合の対策も解説
カテゴリ:住宅ローン
2022-12-09
2022年は世界的に住宅ローンの金利を含む金利が上昇していますが、日本の住宅ローン金利は、日銀による金融緩和政策と銀行同士の競争により、低金利の状態が続いています。
2020年~2021年に関しては、新型コロナウイルスの影響で打撃を受けた経済を立て直すために、海外の主要な国でも政策金利を引き下げる等の金融緩和政策がとられてきました。
しかし、人件費や資源価格の高騰を原因にインフレが進んでいることもあり、海外の国々では金利を上げている国が増えています。
では、日本の住宅ローン金利は今後どうなっていくのでしょうか。
この記事では2022年以降の住宅ローン金利を予想するために着眼すべきポイントと、金利が上がってしまった場合の対策について解説します。
銀行の住宅ローン金利の決まり方
住宅ローンの金利には大きく分けて、変動金利と固定金利があります。
一般的に、変動金利は日銀の政策金利の影響を受ける「短期金利」を元に決められます。一方、固定金利は10年もの国債の金利に代表される「長期金利」などを元に決定されます。
まず、銀行は短期金利または長期金利を参考にしながら、様々な金利タイプの「店頭金利」(基準金利)を決めます。そして、店頭金利から「引下げ幅」を差し引くことで、実際に利用者が借りるときの住宅ローンの金利である「借入金利」が決まる仕組みになっています。
<住宅ローン金利の仕組み>
2022年以降の変動金利はどうなるのか
今後の変動金利の行方を予想するためには、引下げ幅と日銀の政策金利に注目する必要があります。
まず、引下げ幅については銀行同士の競争が続く限り期待できると考えられます。住宅ローンは、銀行にとって、個人に提供している重要な金融商品の1つです。
都市銀行や地方銀行だけでなく、ネット銀行も含めて顧客の争奪戦が続いており、一定の引下げ幅は維持されるでしょう。
仮に引下げ幅が縮小された場合でも、既に住宅ローンを借りている方の引下げ幅は変更にならないのが一般的です。
一方で、店頭金利は、日銀が決定する政策金利の影響を受けるので、物価上昇率や日銀の金融政策に注目する必要があります。日銀は消費者物価指数の前年比2%上昇の目標達成に向けて、政策金利(日本銀行への当座預金の一部に適用される金利)をマイナス0.1%に維持しています。2022年7月21日の金融政策決定会合でもこの低金利政策の維持が決定されています。
(参考)2022年7月21日 日本銀行 当面の金融政策運営について
ここで物価の情報を確認します。
総務省統計局が発表した2022年6月分の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、前年同月比プラス2.2%程度となっており、実は、日銀の目標であるプラス2%を超えています。この事実だけを見ると、「2022年6月の消費者物価指数は年2%上昇の目標を達成しているのに、なぜ7月の金融政策決定会合で低金利の政策を変更していないの?」と疑問に思う方は多いと思います。
この理由は、まだ「物価安定の目標」が達成できたとはいえないからです。日銀が求めているのは、消費者物価指数が安定的に前年比2%程度上昇している経済です。
日銀は、物価を安定させることを使命として金融政策に取り組んでいます。物価の安定は経済活動において重要だからです。
しかし、日銀が2022年7月21日に発表した展望レポートでは、2023年度、2024年度の消費者物価指数は前年比2%上昇を達成できる見通しにはなっていません。「物価安定の目標」はまだ達成できたとはいえなさそうです。これが、政策金利が据え置かれた理由だと思われます。
(参考)2022年7月21日 日本銀行 日本銀行 経済・物価情勢の展望(2022年7月)
2022年7月21日に行われた日銀総裁の記者会見で、日銀の総裁は下記のとおりコメントをしています。
「年明け以降は、エネルギー価格の押し上げ寄与が減衰し、更にコスト転嫁の動きも徐々に一巡していくと予想しており、この結果、 来年度の消費者物価の上昇率は+1.4%まで減速するという見通しになっています。このように、今回の展望レポートでは、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現する見通しとはなっていませんので、先ほど申し上げた通り、 金融緩和を継続する必要があると考えています。」
(引用元)2022年7月22日 日本銀行 総裁記者会見要旨-2022年7月21日(木)午後3時半から約60分
以上のことから、「物価安定の目標」が達成できる見通しが立たないことには政策金利が上がるとは考えにくいといえます。
しかし、日本の労働者の賃金が上昇し、需要の増加により安定的な物価上昇が継続すれば、いつしか日銀が利上げに踏み切る可能性があることは、認識しておく必要があります。
固定金利はどうなるのか
固定金利についても、銀行同士の引下げ幅競争が行われている点については変動金利と同じです。
しかし、店頭金利の決定方法は変動金利と異なります。
前述の通り、固定金利の店頭金利は長期金利によって決まります。下記グラフは、長期金利と住宅金融支援機構が提供する固定金利型の住宅ローン「フラット35」の金利を並べたものです。
(出所)財務省 国債金利情報住宅金融支援機構
【フラット35】借入金利の推移(最低〜最高)平成29年10月から令和3年3月まで<借入期間が21年以上35年以下、融資率が9割以下、新機構団信付きの場合>
【フラット35】借入金利の推移(最低〜最高)令和3年4月から<借入期間が21年以上35年以下、融資率が9割以下、新機構団信付きの場合>
上記資料を基に筆者作成。長期金利は10年もの国債の月末時点の金利を使用し、フラット35の金利は資料中の最低金利を使用している。
グラフからも、長期金利とフラット35の金利は概ね連動していることがわかります。
一般的に、長期金利の変動は、債券市場に委ねられています。今の日本の場合は日銀が10年もの国債の利回りが年0%近辺になるようにコントロールを行っています。さらに、利回り年0.25%での指値オペを実施しています。指値オペとは日銀が指定の利回りで国債を買い入れることで、一定以上の利回りの上昇を抑える政策です。グラフからわかるとおり、長期金利は指値オペが実施される年0.25%前後の水準で頭打ちとなっています。
年2%の「物価安定の目標」の見通しが立っていない現状で、すぐに日銀が長期金利を低位に抑える金融緩和政策を終了するとは考えにくいです。
ただし、今後の物価や不動産価格の上昇率次第では、金融政策の変更が行われる可能性はあります。それが2022年中になるのか否かは、経済ニュース等をみて、各々が判断するしかありません。
安定的な物価上昇は実現するのか
住宅ローンの変動金利と固定金利の行方は、日本の物価上昇率次第といっても過言ではありません。日銀は、金融政策の際に物価上昇率を見ているからです。
持続的な年2%の消費者物価指数の上昇を実現させるためには、賃金の上昇が必要です。賃金が上昇することで、需要が喚起され結果的に物価上昇に繋がるからです。
しかし、下記グラフを見てわかるとおり、日本の労働者の賃金は、2001年以降ほとんど上昇していません。下落基調にあった賃金がやっと回復してきた、という程度です。需要が拡大することで結果的に物価が上昇する、といった好景気による物価上昇が起きるかどうかを占うためには、日本の労働者の賃金の推移をチェックする必要があります。
(出所)令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況一般労働者の賃金を基に筆者作成
一言で「物価上昇」といっても、2022年中に生じているコストプッシュ型の物価上昇(インフレ)には注意が必要です。
輸入品や原材料費の高騰によるインフレをコストプッシュ型のインフレといいます。海外の資源価格の高騰や円安による輸入物価の上昇が原因でコストプッシュ型のインフレが生じることがあります。コストプッシュ型のインフレが起きているにもかかわらず、賃金が上昇していない場合は、インフレを消費者が許容できない可能性があります。
コストプッシュ型のインフレによる消費減退が起きてしまうと、インフレと景気後退が同時に起こる「スタグフレーション」が起きかねません。
スタグフレーションが起きた場合は、利上げをするか否かの判断がより難しくなります。金利を上げれば物価上昇を抑えられるかもしれませんが、同時に消費行動を抑えてしまう可能性もあるからです。例えば、金利が上がることで住宅ローンを借りる方が少なくなれば、住宅市場の低迷に繋がります。
このように、利上げは経済に副作用をもたらします。しかし、生活苦に陥る方が次々に増加するくらいの激しいインフレが起きてしまった場合には、利上げが必要になる可能性はあります。現状、そこまでのインフレが起きているわけではないと日銀が判断するのであれば、賃金上昇が需要増加に繋がることで結果的にもたらされる安定的な物価上昇が訪れるまで、しばらくは低金利政策が続けられる可能性があります。
金利が上がる場合の対策
ここまでの解説の通り、未来の金利を断定することはできません。ゆえに金利が上がってしまった場合を想定し、対策を取れるようにしておくことが大切です。金利上昇に対しては、以下の対策が考えられます。
繰上げ返済の資金を残しておく
借り換えを検討する
繰上げ返済の資金を残しておく
繰上げ返済は期間短縮型で行うと返済期間が短縮されます。
住宅購入時には、手元の資金を頭金としてめいっぱい使ってしまう方が少なくありませんが、手元資金を残しておくと返済計画に余裕を持たせることができます。
借り換えを検討する
高い金利から低い金利の住宅ローンへの借り換えは住宅ローンの総返済額を減らす効果があります。
住宅ローンの返済時に金利が上昇すると影響を受けるのは、主に変動金利で借りている方々です。一般的な変動金利だけでなく、固定金利選択型で住宅ローンを借り、当初の金利引下げ期間終了に伴い自動的に変動金利に移行されている方は、比較的高い金利に変更になっていることも多いので、ご自身の借入金利を確認してみましょう。
適用されている金利が高いと感じる方は、より金利が低い住宅ローンに借り換えを行うことで、総返済額を下げられる可能性があります。
なお、住宅ローンの借り換えの際には、事務取扱手数料や登記関連費用などの諸費用がかかるので、それらを含めても経済的メリットがあるのかを確認しましょう。自身で計算が難しいと感じる方は、オンライン相談を利用するのもおすすめです。
また、事務取扱手数料に関しては、定額型と定率型があります。新生銀行でも提供している事務取扱手数料が定額型の住宅ローンへの借り換えは、比較的借り換え時の諸費用を抑えることができます。
借り換え時に団体信用生命保険を強化できる可能性がある
借り換えのメリットは、総返済額の削減だけではありません。団体信用生命保険(団信)を強化できることがあります。団信の保障内容は一般的に「死亡・高度障害」です。つまり、病気や高度ではない障害は保障されていないということです。
最近は、ガンと診断されただけで、住宅ローンの残債が保険金によって返済されるガン団信や一定の介護状態になった場合に同じく保険金で残債が返済される介護保障付きの団信も見受けられます。
現在借りている住宅ローンの金利が、高いと感じる方は借り換えによって借入金利を下げるだけでなく、団信を強化できるかもしれません。
金利が上がる前提でシミュレーションをしておく
金利が上がるか上がらないかをいくら考えても、答えは未来にならないとわかりません。
それならば、これから住宅ローンを借りる方は、金利が上がるのを前提に借入額や金利プランを検討しておけば安心です。
金利が上がった場合を想定してキャッシュフロー表を作成する
金利が上がった場合の家計の収支を予測するためには、キャッシュフロー表を作成しておくことが有効です。キャッシュフロー表とは、収入と支出と貯蓄額を時系列で年表にしたものです。
変動金利で借りる方は、金利が上がった場合にどれだけ収支が悪化するかを確認することができます。
固定金利で借りる方は、変動金利で借りた場合と比較することで、固定金利の選択が合理的なのか否かを判断できます。例えば、変動金利で金利の引き上げがあった場合でも固定金利に追いつくほどの金利上昇でなければ、結果的に変動金利が有利だった、ということもあり得ます。
キャッシュフロー表を作成することで、感覚ではなく数字に基づいた選択ができるようになります。
住宅ローンシミュレーションを活用する
住宅ローンを取り扱っている金融機関のウェブサイトでは、住宅ローンシミュレーションを使うことができます。住宅ローンシミュレーションを利用することで、金利が上昇した場合に、どれだけ毎月の返済額が増加するかを計算することができます。
例えば、返済期間中に金利が1%上昇すると仮定した場合、返済開始から5年目で金利が上昇するのと、15年目で金利が上昇するのとでは、毎月の返済額の増加額は前者の方が高く、後者の方が低くなります。残債が多い時期ほど金利が上昇したときの毎月の返済金額の上昇幅が大きくなるからです。
住宅ローンシミュレーションを使えば、先に述べた繰上げ返済や借り換えによる経済効果も計算することができます。
最後に
先々の金利を正確に予想できない以上、金利水準が変わらなければ金利上昇リスクがない固定金利を選択したいというのが本音だと思います。
しかし、実際に住宅ローン金利の条件を見ると、固定金利は変動金利の2倍以上の利率に設定されている場合もあり、最終的には変動金利を選ぶ方が多いというのが実情です。
実際、日本の金利はバブル崩壊以降低下傾向にあるため、リスクを背負って変動金利を選んだ方が、結果的に低金利の恩恵を受けてきました。
「利率だけ見たら変動金利を選びたいところだけど、金利上昇の可能性は怖い」という方は、金利上昇時に支払い額がどれだけ増加するのかをシミュレーションしておくと安心です。
例えば借入金利が2%〜3%程度になっても問題なく返済できる借入金額に抑えたうえで変動金利を借り入れするのであれば、金利が上昇したときに返済が滞るリスクを軽減できます。
また、それでも迷う時は変動金利と固定金利を組み合わせるミックスローンも有効な対策です。
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